士業事務所の新業態を創るための挑戦 ~イノベーションとアライアンスの重要性~

現在の士業事務所は、単なる専門サービス、代行サービスの提供にとどまらず、会社経営や社長ご自身とご家族の幸福のためのあらゆる側面をサポートする存在へと進化しなければなりません。深刻な人財不足や急速なAIの進化・普及といった課題に直面する中で、持続的な成長を遂げるためには、新たな業態の構築とイノベーションが不可欠です。本稿では、士業事務所が次世代に向けた新しい未来を切り開くための戦略を探ります。イノベーションし続けるDNAを次世代に遺すことこそが、創業者である私の役割であると考えています。

深刻な人財不足にどう立ち向かうか

士業事務所が直面する最大の課題と危機感の一つが「人財不足」です。

 

「人手不足になったら、求人を出して社員やパート・アルバイトスタッフを雇用する」といった従来の雇用モデルに固執することなく、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)などの多様な就労形態を活用することで、この課題に対応することができます。特に、働く人たちのダイバーシティを尊重し、時短勤務やフレックスタイム制、在宅勤務、シェアオフィスの活用などの柔軟な働き方を推進することが、組織の競争力を高める重要な要素となるでしょう。

 

また、BPOの導入に留まらず、これをさらに進化させたBPaaS(ビジネス・プロセス・アズ・ア・サービス)を展開することで、組織の運営効率を大幅に向上させることが可能です。

 

「アズ・ア・サービス」モデルは、さまざまな業界で広まっています。サービス化された特定の概念を表し、有名なのは「SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス:サービスとしてのソフトウェア)」でしょう。ソフトウェアやアプリケーションをインターネット経由で提供するものです。他に、「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス:サービスとしての移動手段)」や「BaaS(バンキング・アズ・ア・サービス:サービスとしての銀行)」などがあります。BaaSは、銀行が提供する機能やサービスを、APIを介してクラウドサービスとして提供することです。

 

BPaaSは、BPOを単なる外注ととらえるのではなく、「サービス化」としてとらえ、経理部門の丸ごとアウトソーシングを顧客接点のきっかけに、さまざまな経営課題をヒアリングし、その解決に向けて伴走する姿勢のことです。

オールインワンストップ経営支援の実現

士業事務所がお客様に対して「オールインワンストップ」の経営支援をご提供するためには、私たち一社だけで完結するのではなく、優秀な士業や専門家を集めたアライアンスの形成が不可欠です。

 

いわば「集合天才」としてのチームを構築し、各分野の専門知識と実績を持つパートナーと連携することで、お客様に対してより高い付加価値をご提供できるようになります。

 

ここで重要なのは、優秀な士業や専門家を集めた強者連合であることです。それぞれが強みを持ち、相互補完の関係でなければ良いアライアンスは組めません。

これからの人間とAIの役割

ChatGPTを代表とする生成AIの進化と普及が加速する中、士業事務所もDXを徹底しなければなりません。しかし、単なるDX・AIの導入にとどまらず、人間にしかできない「傾聴」などの価値を再認識し、それを強化する仕組みをつくることが重要です。

 

いくらAIが進化しているとは言え、個々人や個社の歴史、バックグラウンド、心理状況、ステークホルダーとの関係性などを総合的に配慮し、未来を見据えて最適な答えを導き出すことは困難でしょう。人間にしかわからないお客様の心の内というものがあり、それを汲み取ることが傾聴であると感じます。

 

私たちは現在、産学連携でAI開発を進めています。人間とAIの協業である「ヒューマン・イン・ザ・ループ(HITL)」の考え方を開発に取り入れ、大学研究機関、実務企業、実務研究機関、在宅ワーカー、最先端人材による開発を行っている最中です。まだα版の段階ですが、β版になる頃には詳細を公表できるでしょう。この取り組みは、士業事務所における人間とAIの協業のモデルケースとなり、新たな業態創りに貢献できるものになると確信しています。

持続可能なビジネスモデルの構築

士業事務所が持続的に成長するためには、「お客様にソリューションと高い付加価値をご提供」し、「ストック型」のビジネスモデルを構築することが求められます。一社ではなくアライアンスを組み、お客様の課題や目標・夢を深く傾聴し、課題解決から目標・夢の実現まで伴走する姿勢が、他社との差別化を図る鍵となるでしょう。高収益、高成長、好財務、そして、働く人たちへの好待遇を実現しなければ、成長し続けることはできません。

 

稼いでいる現業組織の逐次改善では、現状打破するのは困難です。現業組織を在来線に例えるなら、その横に「新幹線」や「リニア」のような新しい取り組みを併設し、新たな挑戦をしなければなりません。未来を見据えた役割分担を行うことが、士業事務所の新しい未来を創るための重要なステップとなるでしょう。現業組織の逐次改善ではなく、「パラレル パラダイム」の考え方で挑戦し続けるのです。

 

私たちは今、「ASUNA Alliance Consulting」というアライアンス戦略を進めています。四国の松山では、人財不足の課題を抱える士業事務所にBPOを導入し、好評をいただいています。そして、BPOをBPaaSへと発展させるために、さらに連携を強化して地域企業様に貢献していく計画です。

 

また、とある地方政令都市企業とのアライアンスも進んでいます。オールインワンストップの相続対策コンサルティングにより、高い付加価値をご提供するための専門チームを組成している最中です。CRMやAIの導入を進め、圧倒的な差別化を図っていきます。

 

アライアンスは信頼関係の構築に時間を要しますし、AI開発も同様です。ですが、着実に一歩一歩進めています。この小さな一歩が、士業事務所の新業態を創る大きな一歩につながると信じています。