会計事務所博覧会2024「税理士のための生成AI活用の最前線」セミナーレポート
2024年10月17日、東京ポートシティ竹芝の東京都立産業貿易センター浜松町館で開催された「会計事務所博覧会2024」において、弊グループ代表の井上一生が「税理士のための生成AI活用の最前線」をテーマにしたセミナーでモデレーターを務めました。パネリストには、同志社大学の小板隆浩教授と、株式会社ROBONの取締役CSOで公認会計士・税理士の荻原紀男氏を迎え、AIと税理士の協業について議論がくり広げられました。本セミナーは、AIが税理士の仕事を「奪う」のか「助ける」のかという問いを軸に、会計事務所業界における生成AIの活用可能性を深掘りする場となっています。本稿で、その一部をご紹介します。
(会計事務所博覧会2024 公式サイトより)
【モデレーター】
SAKURA United Solution株式会社 代表 税理士 井上 一生
【パネラー】
同志社大学理工学部情報システムデザイン学科教授 小板 隆浩氏
株式会社ROBON 取締役CSO 公認会計士・税理士 荻原 紀男氏
会計業界最大の関心事でもある「税理士とAI活用」。
今回、税務相談AIの開発・実証実験について、“産学連携”で「税理士AI開発プロジェクト」を立ち上げた同志社大学研究グループの小板教授から、同プロジェクトの意義や研究開発への取り組みなどについて語っていただきます。
さらに、既に「税務相談ロボット」をサービス提供している、公認会計士で事業家の荻原氏にも登壇いただき、幅広い角度からディスカッションを行います。
AI税務相談について、ここまで進んでいるという認識を皆で共有し、また、業務との関連性、実用化レベルまでの課題などについても、既に「AI税務相談」を作った公認会計士からの開発経緯や活用事例を交えなから、検証していきます。
おそらくこのテーマでの講演は初でもあり、この講演を通じて「税理士はAIをどう使いこなしていけばいいのか」という方向性も見えてくるでしょう。
会計事務所博覧会2024 セミナー会場での様子
生成AIは税理士業務を奪うのか?
セミナーの冒頭、井上が会場に向けた問いは、「生成AIは税理士の仕事を奪うのか?」というものでした。会場の反応は意外にも、「奪う」と考える人はいないという結果に。ほとんどの参加者が、「AIは税理士業務を助ける存在となる」と捉えていることが明らかになりました。
このポジティブな姿勢が、税理士業界における生成AIの未来を照らし出しているとも言えます。生成AIは、確かに会計事務所業務の一部を効率化するツールとしての役割を果たしつつありますが、すべてを代替できるわけではありません。むしろ、AIとともに協業しながら業務を進め、人もAIも成長するための鍵として活用する姿勢が重要なのではないでしょうか。
税務相談AI開発の進展と課題
同志社大学の小板教授は、学生チームとともに進めている「税務相談AI」開発プロジェクトについて説明しました。このプロジェクトは、国税出身税理士や税理士、会計事務所職員とAIが協働し、複雑な税務相談をよりスムーズに進めることを目指しています。
小板教授の研究室では、「ヒューマン・イン・ザループ」という方法を用いてAIを開発し、回答精度を高める取り組みを行っています。AIが必ずしも完璧な解答を出せるわけではなく、常に人間の介在が必要です。特に相続における税務のようにニュアンスや解釈、背景の理解が重要な業務においては、AIの限界を理解しつつ、その精度を向上させるための人間との協働が不可欠です。
ROBONの挑戦―自動化の未来
荻原氏は、ROBONでの取り組みについて語り、AIを活用した決算業務の自動化に挑戦していることを紹介しました。特に、四半期決算のように反復的な作業が多い業務において、AIは大きな役割を果たすことが期待されています。
荻原氏は、「AIによって人間がやらなくても良い業務を効率化・削減し、よりクリエイティブな業務、コンサルティング業務に集中できるようにすることが重要だ」と述べました。また、API連携によるデータの自動取り込みなど、技術的な進展によって、AIが会計事務所業務の負担を大幅に軽減する可能性も示されました。
生成AIと税理士の協業
税務相談における「納得感」を得るためには、人間の介在が不可欠であるという点を、小板教授は強調しています。AIは情報を提供し、初期的な分析を行うことはできますが、最終的な判断や微妙なニュアンスを理解するのは人間です。AIと税理士、会計事務所職員が協力して問題を解決していくことで、業務の効率化と質の向上が期待されます。
また、井上は、過去に税務訴訟で大きなリスクを抱えたことのある経験から、「一人の税理士が、年々複雑化する税務判断を行うことはリスクであり、国税出身税理士による高度な税務判断が欠かせない。また、国税出身税理士の方々の知見や、過去の相談内容、回答といったビッグデータを活かし、AI化していくことも必要。小板教授の学生チームと産学連携で開発を進めている税務相談AIがその役割を担えれば。また、独立したての先生が税賠を恐れずに安心して仕事ができる環境も提供したい。それが、この業界のためだし恩返しだと思う」とも語りました。AIを活用して税務相談の精度を高め、会計事務所業界全体がリスクを軽減できる仕組みをつくる必要性を強調しました。
未来を見据えた産学連携の可能性
セミナーの最後には、AI開発における産学連携の重要性について話が展開しました。小板教授の研究室では、学生チームが実務に直結するプロジェクトに取り組んでおり、優秀な若手人材が産業界に貢献できるような仕組みを構築しています。これにより、学生が開発を通じて現実のビジネスや実務を経験し、将来的に業界をリードする存在となることが期待されています。また、現役の学部生や院生だけではなく、卒業生ネットワークも活用できると言います。大手企業の副業が解禁されており、GAFAMクラスの大手企業に就職する人材に、副業として仕事を手伝ってもらうことができるからです。労働人口の減少により、人材不足が顕著になっている今、優秀な人材の活用は不可欠です。
このように、生成AIの活用は業務の効率化に留まらず、業界全体の成長と発展に寄与する可能性を秘めています。セミナーを通じて、「税理士とAIの共存」という新たな未来の形が浮き彫りになりました。
開発中の税務相談AIや、会社経営における生成AIの活用について関心のある方は、下記のお問い合わせフォームよりご連絡ください。また、税務、財務、労務、相続、事業承継、M&A、BPO導入、マーケティングなど、経営におけるご相談もいつでも承っております。お気軽にお問い合わせください。
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