経営者として知っておきたい「人材育成におけるリーダーの心得」
会社経営において、人のマネジメントや育成の重要度が増していることは、だれもが認めるところでしょう。しかし、それをどのように実践するかは、なかなか難しい問題です。これまでのような、昭和的な力技のマネジメントではなく、理念や哲学、仕組み化が必要であると言われています。それは、具体的にどういうことなのでしょうか?
常に心に留めておきたい「徂徠訓」の教え
(日本思想大系 荻生徂徠 岩波書店 1973年)
私は、江戸中期の儒学者・荻生徂徠(おぎゅう そらい)が説いた「上に立つ者は、下の者を大切にし、その力を発揮させることが大切」という、人材育成におけるリーダーの心得を大切にしています。荻生徂徠が遺した「徂徠訓(そらいくん)」には、その具体的な方法が記されており、マネジメントの参考になるでしょう。私は、この「徂徠訓」を自分の人の活かし方の原則としています。
「徂徠訓」には、以下のような9つの教えがあります。
1.人の長所を初めから知ろうとしてはいけない。人を用いて初めて長所が現れるものである。
2.人はその長所のみをとればよい。短所を知る必要はない。
3.自分の好みに合う者だけを用いるな。
4.小さい過ちをとがめる必要はない。ただ、仕事を大切にすればよい。
5.人を用いる上は、その仕事を十分に任せよ。
6.上にある者は、下の者と才智を争ってはいけない。
7.人材は必ず一癖あるものである。それは、その人が特徴のある器だからである。癖を捨ててはいけない。
8.以上に着眼して、良く用いれば、事に適し、時に応じる程の人物は必ずいるものである。
9.小事を気にせず、流れる雲のごとし。
これらの教えから、人材育成とは「人を見つけることではなく、人を育てることである」ということが学べるでしょう。そのためには、人に仕事を任せて信頼することが大切であるということです。
個性や能力を尊重し多様性を認める
私は、「徂徠訓」を読んで感銘を受けました。そして、自分自身もこの教えに沿って行動するようにしています。自分の考え方や価値観を押し付けるのではなく、人の個性や能力を尊重する。そのためには、人の長所や特徴を見出して活かすことが大切です。
また、自分と同じような人だけを集めるのではなく、多様な人たちと協力し合うことも大切です。そのためには、人の違いや癖を受け入れて柔軟に対応することが求められるでしょう。人それぞれの違いや癖、強みを知って受け入れ、それらを活用して新しいアイデアや解決策を生み出す。まさに集合天才(Collective Genius)であり、ダイバシティです。
私は、経営者として知っておきたい人材育成におけるリーダーの心得は、「徂徠訓」にあるとますます感じます。もちろん、時代や環境によって、適切な方法は変わるかもしれません。しかし、その根底にあるのは、人を大切にするという姿勢です。それは、今も昔も変わらない普遍的な真理なのではないでしょうか。